すごい人がいる

リンゴが教えてくれたこと 日経プレミアシリーズ

リンゴが教えてくれたこと 日経プレミアシリーズ

本屋で“虫は作物の毒を食べている。雑草は余分な栄養を吸い取り、土を作る。”というオビの文と、表紙のひとなつっこいおじさんの写真に惹かれて買った「リンゴが教えてくれたこと」木村秋則/著を読んだ。もう、“はじめに”を読んでるとこから、通勤電車の中にもかかわらず涙。まったくこの人に関して予備知識がなかったので、こういう話だとは全然思っていなかった。農業関係の本を読むのも初めてでとても新鮮だった。
“リンゴは農薬で作る”というほど病害虫対策に農薬が欠かせないリンゴ栽培を、農薬がキツいため家族(奥さん)が健康を害したことをきっかけに、無農薬・無肥料栽培を模索。10年近く収穫ゼロ(無収入!)になるなど苦難の道を歩みながら、ついに完全無農薬・無肥料栽培に成功する、、、。その無収入の9年間が、ほんとに“苦難”。人間の体も壊すような農薬(肌についたら火傷のようにただれちゃうほど、だとか)が植物にいいわけがない、と信じて、農協の指導通り、教科書通りの農薬漬け栽培(病害虫予防、スピード、収量アップ)をしている近隣の生産者や親戚からのものすごい非難を受けたり、村八分にされたり、貧乏どん底時代の項は、何度もポロリとなる。でも、苦労話を自慢げに話している風ではなくて、語り口が真摯でこの人の誠実さが伝わってきて全然嫌じゃない。そして、どん底時代に土や虫や病気を観察に観察を重ね、リンゴがならない間はお米や野菜で勉強、実験、データを取り翌年は方法を変えて…を何年も繰り返し、ついに成功にこぎつける。それはもう頭が下がる、よくそこまで頑張れたな、、こんな人がいたんだーーー、と。白金台「シェ・イグチ」のホームページの「奇跡のりんご訪問紀」でも詳しく紹介されている。1ページ目は、本に書いてある木村氏のこれまでがかなりざっくり書かれているので、本を読むならここは読まない方がいいと思う。2ページ目からは木村さんを訪ねていく、井口シェフの細やかなレポートが、尊敬と愛情が感じられて◎。
“自然栽培”、で一番ビビっときたのは、“有機栽培”とは違うってこと。腐敗実験の結果にはビックリした。永田農法も、栄養過多な土を使わずカラカラの日向土でやる、っていう点では自然栽培に近いんだろうな、と思ったけど、液肥(化学肥料)を使うから完全無肥料ではない。この本を読んで、土づくり、がものすごく大切なんだなと知る。その点で、日向土には、土壌中の微生物が決定的に欠けている気がする。。。植物の根は最終的にはチッ素・リン酸・カリを元素単位で吸収するから、有機肥料は、吸収させるには微生物やバクテリアによる元素への分解が必要、化学肥料は、化学的に合成した“分解しやすい肥料”、だからってチッ素・リン酸・カリだけあれば微生物はいらないのか?木村氏のリンゴ園は、いかに有効微生物を土壌に増やすか(山の土と同じにするか)、に9年かかったようなもの(今まで投入してきた化学肥料成分がリンゴの木や土壌から抜けていくのにそれだけ時間がかかった)。それで完全無農薬・無肥料でまさに自然のまま、病気にも強い、害虫も来ない、腐らない野菜、ができるようになったわけだけど、永田農法は、なんでそれでいいのか、もうちょっと科学的なロジックを知って納得したい。本屋に売ってる永田農法本は、どれも簡単な栽培法、糖度も栄養価も高いです、と、同じような内容のばかりで。アマゾンで見てみたら
http://www.amazon.co.jp/食は土にあり—永田農法の原点-永田-照喜治/dp/4757121156/ref=cm_cr_pr_sims_t
があった。これに載っているのかなぁ。どうもなぁ、最近疑問がわいてきてて。生育スピードは遅い方がむしろ自然、ていうのは納得したけど、シソも普通の土に植えたやつの方がシソの香りがしてるし、バジルも日向土の方は葉にツヤがなくって固めの葉、で普通の土の方が葉も香りもバジルらしいんだもの。まあ、本なんて読んで頭でっかちになってる暇があれば観察、試行錯誤しなさい、っていうのは分かったんだが。やみくもに頑張ってもダメなわけで。本屋の作物学コーナー、なかなか面白い。